読むとクスッと笑える美容師出口寛之のブログ

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掌編小説3rd[200メートル徒競走]

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「さて始まりました。3年生のかけっこです。それぞれが頑張っております」
 

 

盛り上がる会場。主に観客席。

それぞれのお父さんとお母さんがその運動場にひしめき合う。
 

 

 

俺はそんな中でも、最高の席を確保していた。

 

前日を無理やり公休にし、前日の夜から徹夜組張りの力を発揮。

本当は徹夜をして並んではいけないのだが、何とかばれずに済んだ。

 

「あなた高橋君のお父さんですよね」って言われた時が一番焦ったが、「いいえわたしはただの高橋です。独身です」といって振り切った。

 

何とかなったはず。

 

「あなた! 慎吾よ!」
 

 

 

俺の嫁、ななみが僕の肩を強くたたきながら興奮気味に伝えてくる。

ついに慎吾の晴れ姿が見れるんだな!
 

 

俺は自前の長望遠レンズを構え、撮る、撮る、撮る。

 

最高のシーンを収めまくった。

実に10秒間の間に100枚。

 

「あなた、慎吾2着だったわ! 佐藤君が1着だったみたいね。悔しいわね」
 

 

ななみが涙を流す。

俺はそうだなといいつつ、ななみの頭をぽんとたたき本命の競技へと出向く。

 

 

「次は徒競走200メートル、父親編になります! ここぞという父親の皆さん、ふるってご参加ください!」 

 

俺は一目散にスタートラインへと向かう。

そして入念なストレッチ。

よし、調子は良さそうだ。

靴紐の確認。

完璧だ。

吐き気。

なし。

最高だ。

 

 

 

「また貴様か」
 

 

 

この声はと、そちらのほうを向く。

 

佐藤の親父だった。

 

久しぶりだなと答えると。

 

「さっきは息子が勝たせてもらったよ。このまま俺も勝たせてもらうぜくそ野郎が!」
 

 

なんて野蛮なくそ野郎だと思ったが、そこは抑えて走るときに爆発させようと思った。

 

「では、位置についてください!」

 

「位置につけよてめえ」
 

ついてるよとっくに。

 

 

「よーいどん!」
 

 

 

始まったと同時にスタートダッシュをかけたのは、佐藤だった。

あいつは去年もそうだったが、スタートダッシュをかけて前半距離を開くタイプ。

俺も前半にかけるタイプなので、出遅れないよう佐藤と並んだ。

 

 

「そうか、貴様も同じペースだったな! だが、ぬるいわ!」
 

 

 

そういうと、佐藤は今のスピードよりも1段階、いや2段階は上げて来やがった。

 

あんなペースで走ったらあとが持たないのでは?

 

 

「後が持たないとか今思ってんだろ! バカめ! 貴様とは準備が違うんだよ! 俺はこの日のために半年前から会社を辞めてフリーターになり、マラソンランナー張りのトレーニングを積んできたんだ!」
 

 

 

ばかだ、と素直に思った。

 

こいつは息子の運動会の1競技のために仕事を辞めた。

人生を棒に振ったのだ。

奥さんどうやって養っていくんだよ。
 

 

そんなことを考えている間にもどんどん離されてしまう。

100メートルを超えたあたりから、俺の体力も底をついてきた。

 

あいつはまだ全速力で駆け抜けている。

やってきただけはあるようだな。
 

 

だが、それと負けることは何も結びつかない。

 

俺が負けてしまったら、ななみと慎吾に申し訳ない。
 

 

 

俺は飛ばそうと意気込む、が。

煙草に酒の付けが回ってきた。

普段の生活習慣の乱れから、著しいほどの体力の減少。

俺は自分の体の力を過信しすぎていることに気づいた。
 

 

 

一気にペースが落ちる。

 

ほかのパパにもどんどん抜かれていく。

 

 

「はは! どうしたんだよ! てめえは! そんなもんかよ!」
 

 

 

そんなもんではないと言いたいところだが、そんなもんだった。

 

もう無理だ。死ぬかもしれない。

 

 

「ぱぱ! 頑張って!」
 

 

 

そんなことを考えていた矢先、ラブリーマイエンジェル慎吾の声が確かに聞こえた。

 

聞こえていないのかもしれない。

でも俺には聞こえた。
 

 

 

体のそこから力が湧いてくる。

今までにないくらいに。

これなら、いける!
 

 

俺はそこから飛ばす。足を回転させる。必死に期待に応える。

 

俺が一番だ! 必ずなってやる!

 

 

 

 

 

 

 

 

最下位だった。