掌編小説2nd[そらをとぶ]
僕はなぜか、屋上にいた。しかも屋上の端の端。末端だ。
あと一歩踏み出せば下に真っ逆さまだ。
だけど僕は、恐怖を感じていなかった。
僕はなんだか、空を飛べるような気がした。
というか、元々人間は空を飛べるんじゃなかったっけ? と思い始めた。
そうだよ。肩甲骨にある骨は、成長すると翼になるっていうじゃないか。
人間はとりあえずしまっているだけで、いつでも出せたんじゃないだろうか。
風が、僕の体を吹き付ける。
冷たい風と共に、どこからか来た枯葉が僕の頬を撫でる。
ピッとした感覚があり触ってみると、一滴の赤い液体。
血だと認識するまでに、少し時間がかかった。
ふと思った。これは夢なんだろうかと。
僕は明晰夢を見ることができる。
明晰夢とは、自分で自分の夢を夢だと認識してある程度操作できる夢のことである。
僕はそれが得意で、何度も行ってきた。
おいしいものをたくさん食べてきたし、たくさんのところに出かけたし、たくさんの女の人と遊んだ。
僕の周りの人間は思い通りに動いてくれるから、とても動きやすかった。
すばらしい世界だ。
独裁とはこういったことを言うのだなと思った。
すごく生きやすい世界だ。
いろいろ頭に巡らせていると、空中に一つの何かが存在を現した。
よく言うところの妖精。しかもかわいい。僕の好みだ。
「私たちの世界に来てみない?」
夢の中で誰かに誘われたことは初めてだった。
僕は初めてのことに高揚感を覚え、即オッケーした。
「あなたにわたしたちと同じ羽を生やしてあげるね!」
そういうと、僕の背中に妖精の羽が姿を現した。
天使の翼のほうがお好みではあったが、目の前のかわいいよう生産と同じ羽が生えていると思えば幸せだ。
「さあ、行こう!」
僕は妖精に導かれるようにして、一歩を踏み出した。
「ニュースです。きょう未明、○○病院の庭で遺体が発見されました。死因は飛び降りたことによる衝撃での頸椎損傷。この○○病院の患者とみられます」
「こちらの先生にお伺いしてみます。彼はどんな方でしたか?」
「彼はとてもまじめで、治療に専念していました。こうなってしまったことは残念です」
「ありがとうございます。えーどうやら彼は麻薬中毒により入院せざる負えない形になり、現在治療中とのことでした」
「彼はいつもこう言っていました。
僕は明晰夢を見ることができる。
明晰夢とは、自分で自分の夢を夢だと認識してある程度操作できる夢のことである。
僕はそれが得意で、何度も行ってきた。
おいしいものをたくさん食べてきたし、たくさんのところに出かけたし、たくさんの女の人と遊んだ。
僕の周りの人間は思い通りに動いてくれるから、とても動きやすかった。
すばらしい世界だ。
独裁とはこういったことを言うのだなと思った。
すごく生きやすい世界だ。と」